音の持つ生命力を技術で届ける
「音にこだわりのあるお客様めがけてモノづくりをしていくこと」がテクニクスとしてやるべきことと語るアプライアンス社技術本部の研究員、奥田忠義。お客様へのこだわりが強いからこそ、ニーズを満たすことの難しさを感じると同時に、それ以上のやりがいもあるという。
もともと家電が好きで、父親の壊れたステレオを分解して遊ぶ子供だった奥田が、「いつか、モノを作る仕事がしたい」と思うようになったのは自然な流れだったと話す。家電とモノづくりに興味のあった奥田。パナソニック入社の決め手となったのは「オーディオ部門があったから」だ。
情景が浮かぶ音づくりを目指して
学生時代の専攻は電気電子工学、ニューラルネットワークの研究をしていた奥田が、入社時に配属されたのはビデオ部門。ちょうど地上波デジタル放送が開始され、ブルーレイの商品開発が始まった時期であった。主に高画質映像信号処理技術の開発に9年ほど携わった。さらに、本物の映像技術・音技術を追求したいと考えていた矢先、Technicsブランド立ち上げメンバーに抜擢され、オーディオアンプの開発担当となる。
テクニクスにとって一番重要な価値観は「音がよい」ということ。「よい音」を追求するために、日頃から心がけているのは、いろいろな音楽を意識的に聴くこと。奥田にとって「よい音」とは、音が鳴ったときにその情景が浮かぶこと、そして、アーティストが伝えたいエネルギーが伝わってくること、この2点なのだそう。
「アート×技術」でいちばん頭を使うポイントは、抽象的なことをいかに現物に落とし込むかということ。エンジニアは、周波数特性やS/N比などの物理特性を数字で定量的に突き詰めていくけれど、「よい音を作る」ということは、それだけで図ることはできない。アーティストが音楽に込めた想いを伝えることが大切と考える奥田は、実際にレコーディングスタジオに足を運び、音づくりの現場に立ち会うという。同じスペックでも聴く環境で音は変わる。ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との協業でも、コンサートホールにおける音作りの現場を知ることで、商品開発へのフィードバックに役立つと期待している。
■ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と技術開発で協業
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/r-and-d/berlin_collaboration.html
スマートスピーカーの次を見つめて
オーディオ商品は、生活必需品とは違う趣味の商品。音にこだわりのあるお客様という絞り込んだターゲットに向けてのモノづくりが必要になってくる。商品となり形になったとしても、そこがゴールにはならないという。例えば、音にこだわるお客様は、スピーカーを置く位置で音が変わることを知っており、その違いを楽しみ、日々調整することが趣味だったりもする。
一方で、より手軽にいい音を聴きたいというニーズもある。スピーカーから出る音は、部屋の形や材質、反響などで聴こえ方が変わってくる。テクニクスでは音響補正技術にも取り組んでいる。例えばスマートフォンのマイクを活用し、部屋の音響特性を計測して調整していくという技術である。Hi-Fiオーディオだけでなく、デジタルでしかできないことにも積極的に取り組み、より良い音での音楽再生を目指している。
テクニクスにはアナログを楽しむというテーマがあり、レコードのホコリをぬぐい、針を落として…といった一連の手間に喜びを感じるもの。しかし、世の中にはAIスピーカーも登場し、手軽に曲をかけることもできる。テクニクスが目指すのは、スマートスピーカーの次にどんなオーディオの形があるのかということ。まさにアナログとデジタルの融合である。
自分が携わった商品をお客様が手にする場面を目にすると、「技術に対して価値を見出してくれた」と喜びを感じると話す奥田。これこそ、BtoC商品を扱っているパナソニックならではの魅力である。カタログに載るような技術開発に携われるのは光栄なことと感じるとともに、エンジニアとして世の中の不可能を見つけてそれを可能にすることにこれからも挑戦していきたいと、目を輝かせていた。