「家電の雄パナソニックだからこそ、意味を解するAIが求められている」 立命館大学谷口教授が語る国際学会を見据えた有給インターン 「家電の雄パナソニックだからこそ、意味を解するAIが求められている」 立命館大学谷口教授が語る国際学会を見据えた有給インターン

家電の雄だからこそ、意味を解するAIが求められている ― 谷口教授が語るAI有給インターン

AIの研究領域や製品への活用は非常に多岐にわたる。谷口氏は、自身の研究をパナソニックというフィールドでいかに生かしているのだろうか? 大学と企業での研究を両立する「産学連携」の生き方や、学生と企業の二人三脚でトップレベル国際学会を狙う有給インターンシップへの思いを語った。

ロボットを通して「主観」を探求する

――学生時代の研究について

もともと私は、「人間が世界をどうやって認識しているか」ということに興味がありました。「意識」や「認識」は非常に主観的なものなので、科学の対象として取り扱うのが難しいものとされてきました。 しかし、物理や科学的な視点からそれらが生じるプロセスを客観的にモデル化することはできるんじゃないか? と思ったんです。学生の時は機械系の研究科に在籍していたため、ロボットを通じて「主観が生じるという”客観的な”現象」を再現しようと考えました。

「ロボットの個体としての知能がどう作られるか、環境との相互作用の中で知能はどう成長するか」というテーマでシミュレーションをメインに研究に取り組んでいました。 ロボットは今も「道具」として捉えられる側面が色濃く残されている。命令によってしか動作しない、いわば他律的な存在だったわけです。そのため、特定のタスク以外のタスクや環境の変化への適応は限定的にしか扱われない。しかし、人間や生命にとっては環境への適応と発達こそが本質なんです。 そこで、人の知能と同じように、ロボットの持つ知能が環境との相互作用の中で自律的に育つ仕組みを作れないか、そして、環境認識、つまり主観自体が立ち現れてくる過程を表現できないかと考えました。この発想に至ったのが、修士2年の頃でしたね。

博士課程に進学してからは、その着想をもとに記号創発システム論を構想していきました。ロボット自身が自らの経験に照らして、概念の形成や意味の理解を発達させていく、そして、自律的に発達していく、そんな未来を描いたのです。それ無しには人間にとっての言葉の意味も理解はできないと思っていた。 ロボットの知能に「現実世界」と「文化や社会によって異なる意味を持ちうる言葉」の両方を正しく認識させるにはどうしたらいいのか。今も探求は続いています。自分が生きているあいだには解決できないかもしれない壮大なテーマ(笑)。

インタビュー風景

企業・大学・研究者の全員が幸せになれる仕組みを

――卒業当時は研究者としてのキャリアを思い描いていた?

研究以外の道も視野に入れていました。そもそも修士課程からの就職に比べると、博士課程進学はリスクが高い選択。アカデミックポストの席は限られているし、「研究が面白い」という理由だけで博士課程に進学するのは「かなりリスキーでは?」と思います。 今、私は立命館大学に教授として籍を置きながら、パナソニックでも社員として仕事をする「クロスアポイントメント制度」を利用しています。学術界とビジネス界はビジョンや目的は違えども、研究で生まれた成果の一部をビジネスに活用することに全く抵抗はないし、その広がりがあって、大学の研究にも新たな意味が付与されるのだと思います。 実はクロスアポイントメント制度、文部科学省や経済産業省は枠組みを提示したのであって、「利用」するようなものが用意されているわけではありません。詳細な取り決めなどは各企業や大学で新たに作らないといけません。当時は大学と企業との前例がありませんでした。そこで、パナソニックと大学の多くのスタッフにも手伝ってもらって、制度そのものを作っていったんです。

――クロスアポイント制度の設計に踏み切ろうと考えたのはなぜ?

立命館はアントレプレナーシップの姿勢が強いので、「前例がないなら、うちでやるか!」ということになって……(笑)。勢いも大事なんですよ、関西人なので(笑)。 これまでのクロスアポイントメント制度は、ステークホルダー全員の現実的なメリットがきちんと考えられていなかった。特に、研究者自身にとっては仕事が増えるが、給料は増えないという残念な存在でした。大学にとっても複雑なばかりでメリットが微妙。結局、インセンティブがなかったから浸透しなかったんです。 そこを解決したかったので、三者全員がメリットを享受できるように制度を新たに設計しました。クロスアポイントメント制度の「立命館大学・パナソニックモデル」なんて呼んでいますが、これが浸透するかどうかが、クロスアポイントメント制度の未来を決めると思います。

インタビュー風景

「家電×AI」への挑戦――パナソニックにはチャンスが転がっている

――パナソニックで研究に取り組むことになったきっかけは?

4年ほど前に講演で記号創発ロボティクスについて話をしたとき、社員の方々が強く関心を持ってくれました。パナソニックは今、家庭やオフィスなど、生活の場面におけるAI製品の開発に注力しているので、「ロボットに自己や認識を持たせて人とコミュニケーションさせる」という私の研究テーマと重なる部分が大きかったのだと思います。 生活のなかにある製品は、さまざまな文化や環境、ユーザーのもとで使われます。現行の技術のみでは、AIを個々の環境にスムーズに適応させるのは非常に難しい。そこで、私の研究を製品開発に活用できないかと考えて、声をかけてくださったというわけです。

パナソニックには、高品質の家電製品を作る知見やノウハウが十分に蓄積されているので、「AI×家電」をいち早く実現するポテンシャルを持っています。世界的に見ても、AI研究の家電応用はまだあらゆる可能性をみんなが模索している状態なんです。 現在のAI研究を牽引しているのは、FacebookやGoogleをはじめとした情報通信サービス産業。対象はパターン情報処理が主流。しかし、例えば調理や洗濯などを完全に自動化するにはまだほど遠いように、ソフト領域では解決できない課題も数多く残されています。 家電製品は、そういった意味で非常にチャレンジングなカテゴリーです。どの製品でAIをどう活用できるかは未知であり、発明のフェーズにおいては、どこにチャンスが転がっているか分からない。そういった意味で、多種多様な製品群を持つパナソニックは秘めているものが非常に大きい。だからこそ、一緒にその可能性を探っていきたいと思いました。

インタビュー風景

ビジネスと研究、両者の本質は「問題解決」

――有給インターンシップの概要は?

このインターンは、これからプロフェッショナルを目指す博士課程の学生や、学振特別研究員のポスドクなどを対象としています。 手軽に参加できる企業見学のようなものではなく、学生のアイデアや強みと弊社の持っているものをコラボレーションさせ、かなりハイクオリティーなインターンにします。パナソニック×AIの本気を体感してもらい、本気で一緒に研究開発をするつもりです。 こちらからもテーマはいくつか提供しますが、インターン生と研究者がタッグを組み、インターン中の成果を世界トップレベルの国際会議に出したり、何かのプロジェクトにつなげたりなど、実のあるゴールを目指したいですね。

――報酬がない職場体験を目的としたプログラムが多い中、有給のインターンは珍しいのでは

そもそも、日本には無給のインターンが多すぎる。インターン生の持つ専門性やスキルに対して報酬を払うのは当然なんですよ。 博士課程の学生へ給与が払われていないという日本の現状は、「やりたいことをやっているんだから、金がもらえなくても文句を言うな」という価値観から生じているのかもしれません。この状況は、なんとしてでも変えていかなくてはならない。そうじゃないと、日本の学術の未来がない。 まずはできることから変えていきたいと思い、自身も大学で博士学生をリサーチアシスタントとして雇用する制度を整えました。有給インターンも含め、こうした動きが今後の日本を少しでも変えられたらいいですね。

――本インターンで学生に求めるスキルやパーソナリティーは?

高い実装力や理論を読み解く力は前提として、パナソニックのラボの環境に歩調を合わせられる人、かつ、自ら提案ができる人を求めています。 自分とメンバー、それぞれがしたい研究の両方を実現する方法を考えられなければ、チームワークは難しい。一方で、インターン生自身の持つ強みやアイデアに対し、「そこにウチの研究をこう寄せたら、こんな面白いことができるんじゃない?」というイノベーションが起こせることも期待しています。

参考記事:STORIES:企業と学生の二人三脚で世界トップレベルの成果を狙う - メンターの岡田、阪田が語るAI有給インターン

そういう意味で、積極的に自らをアピールし、提案ができる人が望ましいですね。

インタビュー風景

――AI研究に取り組む読者へ向けたメッセージ

研究とビジネスは別物ではありません。研究とは、アカデミアにおける問題解決で、ビジネスは産業や社会における問題解決。今、パナソニックがチャレンジしようとしていることは、研究を使って社会の問題解決をすることです。かなり挑戦のしがいがあると思います。 インターンを通して、パナソニックのAIにかける本気を感じてください。ぜひ一緒に新しい世界を切り開いていきましょう!

※本文中の部署名等はインタビュー当時('18.12)のものです。事業会社制への移行に伴い、'22.4以降、本取組はパナソニック ホールディングス(株)に引き継がれます。

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